こんにちは。
読書が好きな理系大学生のさいどです。
今回は最近読んで印象的だった本について書きたいと思います。
突然ですが、問題です。
次の文を読みなさい。
「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。」
問、この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。
セルロースは( )と形が違う。
①デンプン ②アミラーゼ ③グルコース ④酵素
正解は後ほど
読んだ本
今回紹介するのはこちら
『AI vs 教科書が読めない子どもたち』です。
著者の新井紀子さんは一橋大学の法学部を出た後、イリノイ大学院の数学科を出て理学博士となった異色の経歴を持つ方です。
新井さんは2011年から「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトのディレクターを務めた言わば人工知能のプロフェッショナルです。このプロジェクトは人工知能に興味のある方なら多くの人が聞いたことのあるのではないでしょうか?
そんな日本の人工知能のトップを走る方が書いた本です。
内容もわかりやすくかみ砕かれており、文系の方でも大体理解できるのではないでしょうか。
というかこの本、文系の方にも是非見てほしいです。
この本kindle版もあるので、読める環境がある方はkindle版もご一考ください。
kindleについて書いた記事はこちら
どんな本?
この本は、ロボットは東大に入れるかプロジェクト(以下東ロボくんプロジェクト)を通して、前半は人工知能の仕組みをわかりやすく解説し、人工知能はどんなことが得意なのか、今のところどの程度の知的作業ができるまでになったのかを大学入試という物差しを使って解説してくれます。
後半は、東ロボくんと現役の学生を比較して、その結果をもとに将来起こりうる事態を想定しています。
みなさんも近い将来人工知能が多くの仕事を人間の代わりに担うというのは聞いたことがあると思いますが、この本は、なぜそんなことが起こりうるのかっていうのはよくわからない人がほとんどなのではないでしょうか?
ぼくは大学で情報系を学んでいるのですが、正直よくわかってませんでした。
バイト先で都市伝説大好きな社員さんに
「さいどくん。いずれ人間は人工知能に滅ぼされちゃうんだよ!」
といわれても言い返せないんですよね。だってよくわかんないんだもん。
そんな得体のしれない人工知能をあらわしたもので、ぼくが本質をついてるのかなと思った部分がこちらです。
論理、確率、統計。これが4000年以上の数学の歴史で発見された数学の言葉のすべてです。そして、それが、科学が使える言葉のすべてです。(中略)
「真の意味でのAI」とは、人間と同じような知能を持ったAIのことでした。ただし、AIは計算機ですから、数式、つまり数学の言葉にい置き換えることのできないことは計算できません。では、私たちの知能の営みは、すべて論理と確率、統計に置き換えることができるでしょうか。残念ですが、そうはならないでしょう。
これを読んで思いました。
僕も含めて多くの人が抱くAIへの考えは間違いなのだなと。
AIはある種の魔法のような気すらしていましたが、現実は電卓の延長なのだなと。
例を挙げれば、「私はあなたが好きです」という文の意味をAIは理解しないということです。
好きというのは数学的な論理(真か偽か)でもなければ、50%で表せるような確率でもありません。もちろん、データを集める統計で表せるはずがないんです。
でもGoogle翻訳に私はあなたが好きですと入力すれば、「I like you.」とちゃんと翻訳されます。
ココがいまのAIの核となるビッグデータのトリックです。
AIは意味を理解しない
結論から言うと、Google翻訳はただひたすらに日英の対訳の例文をデータとしてため込み、入力された文と比較しているに過ぎないらしいのです。
ぼくはてっきり文法などを把握して構文も理解できるものだと思っていただけに、とても驚きました。
たまにtwitterなどでGoogle翻訳の面白い誤訳って回ってきますよね。現実では絶対起こらないやつ。
これってこういう仕組みから生じるものなんだと今更気づきました。
東ロボくんに話は戻ります。
東ロボくんも同じような仕組みを使っています。ただ、入れるデータの傾向をセンター英語向けにしたものをインプットしています。センター試験を受けたことがある方はわかると思いますが、この仕組みでは、センター英語は厳しいのです。
センター英語はアクセントや空欄補充、並び替えなどこの仕組みが通用しそうな問題の割合が低く、読解能力を試す問題の割合がとても大きいです。結局東ロボくんは、英語を攻略することはできませんでした。
東ロボくんが示すこと
結局、東ロボくんは東大に合格することはできませんでした。東大合格者平均が9割のセンター英語で5割ほどの正答率ですから、仕方がないでしょう。さらに読解力が求められる東大の2次試験は到底不可能だったと思います。
ただ、限定的な言語しかない数学や、日本史では、意味を理解しなくても、東ロボくんはかなりの正答率を誇り、模試の判定にすぎませんが、MARCHレベルの大学の多くの学科に合格できる点数に到達することができたそうです。
これが何を示すかというと、
問題の意味を理解しなくても、日本の大学群の中ではかなり上位であるMARCHに入れるということです。
ただ、裏を返すと、しっかりと意味を理解し、コミュニケーションする力があれば、AIに負けることはないんです。
ただ、この本のタイトル通り今の学生の多くは教科書が正しく読めていないんです。
冒頭の問題の答えは①のデンプンです。いかがでしょうか。これが正解できた方は、安心してAIと共存してください。
ちなみにぼくはしっかりと誤答しました。
この問題は、新井さんが、学生に行った読解力調査の一問です。
もう一つ付き合って下さい。
「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。」
問、この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。
オセアニアに広がっているのは( )である。
①ヒンドゥー教 ②キリスト教 ③イスラム教 ④仏教
下は見ないで答えてくださいね。
正解は②のキリスト教です。
いかがでしょうか。
この問題、中学生の正答率は62%、高校生は72%だったそうです。ちなみに高校は進学率ほぼ100%の進学校だったそうです。この問題、東ロボくんは正解しています。
この数字は個人的には危機的だと思います。
中学校だったら、30人のクラスで10人が教科書の意味の分からないということになってしまいます。
AIと共存する社会で、多くの人々がAIにはできない仕事に従事できるような能力を身に着けるための教育の喫緊の最重要課題は、中学校を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることです。世の中には情報は溢れていますから、読解能力と意欲さえあれば、いつでもどこでも大抵自分で勉強できます。
この文の裏を返せば、このままでは、多くの人が教科書が読めないせいで、AIにとってかわられてしまうということです。
AIの方が、意味を理解する以外の多くの場面で人間より優れているんですから。
この本の最後には、AIがもたらす最悪のシナリオが描かれています。興味のある方はぜひ読んでみてください。
最後に
ぼくは人工知能で完璧に会話できるロボットを作りたいなとぼんやり思ってたのですが、それはいまのAIでは原理的に無理なんだなと今更わかりました。だって意味を理解していないんだもん。
じゃあ、何すればいいんだろうと思ったとき、この本には、人工知能に与えるデータの傾向などを決めるいわば人工知能の先生にあたる人がこれから必要とされると書いてありました。
なるほどと思いましたが、この仕事は人工知能に見かけの人間らしさを加えるわけですから、誰よりも深い理解力や、コミュニケーション能力が必要なのかなと思います。
高校まではそこまで感じなかったのですが、最近、大学の教科書の理解にかなりの労力を要するようになりました。何度も何度も読んでぼんやりと理解できるレベルです。
コミュニケーションも苦手です。
人前で話すのも嫌だし、できれば、お店の店員さんとのやり取りも避けたいようなやつです。
ただ、これから必要になっていくのは、むしろ、いろんなものを理解したうえで、それをアウトプットしていく力。
学歴だけじゃこれからは、くいっぱぐれちゃうのかななんて。
ではでは~